2008年11月14日、ある傷害事件が報道された。長崎県佐世保市で起きた「事件」であった。

<blockquote> 13日午前7時55分ごろ、長崎県佐世保市木風町で、登校中の市立中学3年の女子生徒(15)が、男にいきなりナイフのようなもので切り付けられ たと近くの民家に助けを求めた。県警佐世保署などによると、生徒は首の左側と左手に軽いけが。犯人は逃走し、同署などが傷害事件として行方を追っている。調べによると、男は身長170センチくらいで、黒っぽい上着とストライプの入ったズボン姿で帽子をかぶっていたという。 (時事通信社配信)</blockquote>

ところが、この事件は被害者とされた女子中学生の虚言であることが判明した旨、その同日報ぜられた。

<blockquote> 長崎県佐世保市木風町で13日朝、市立中学3年の女子生徒(15)が男に切り付けられたと民家に助けを求めた事件で、女子生徒が県警佐世保署の同日午後 までの調べに「通学途中に自分で首などをかみそりで切った」と話していることが分かった。同署は、女子生徒を軽犯罪法違反(虚偽申告)の疑いで調べてい る。
 同署によると、女子生徒は泣きながら反省の態度を示しているという。(同社配信)</blockquote>

(私には)考えるところの多い「事件」であった。そのうちの一つだけここに書いておく。

虚偽申告を真に受けた警察の発表を真に受けた報道機関の報道は恐らく多くの人にとっても真に受けられたことだろう(筆者注:読みにくい文章だが敢えてこう書いてみた)。そして今回の一連の出来事がこの女子生徒に及ぼす”教育的効果”という観点から見た場合、そうした「伝言ゲーム」によって事がことさら大きくなったことについて、それがこの生徒に「嘘ついたら大事(オオゴト)になるぞ!」という積極的な教育的効果を与えたとして高く評価してよいものか、それとも、まだモノの道理が分かっていない中学生の言動とそれに対するペナルティを徒にさらしものにしたとして消極的に評価したものか、少なくとも私には分からない。まさか今回の件に関してやれ「生徒の心の傷をいやしてやらねば・・」などと言う者はいないだろうが、それにしても「なぜこの女の子がそのようなことをしでかしてしまったのか」も知らないまま、ただもう条件反射的に広く報道されたこと(いまさら、ではある)には大いに疑問を感じる一探偵であった。

ところで、今回のようなケースは「○○の被害を受けました」という(しかも未来ある未成年者の)申告が虚偽であったところから、軽犯罪法違反(虚偽申告)という比較的軽い罪ですみそうであるが、万一にも他人を罪に陥れる目的で虚偽の申告をなした場合は「虚偽告訴罪(かつての誣告罪)」としてそれなりに重い刑が科されることになる。いや、なっている。

<blockquote>人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三月以上十年以下の懲役に処する。(刑法第172条)</blockquote>

なお判例(大判大5.9.20)には

<blockquote>虚偽の申告は必ずしも具体的事実に限らず、抽象的事実であっても捜査権限を有する当該官庁の職権の発動を促すに足るべきおそれあるものであればよい(以下略)</blockquote>

とある。

まだまだ書き連ねたいのだが、筆が滑りそうなのでひとまず置くことにする。

(平川記)