数年前の年末、市内の九丸さん(仮名)と称するご夫婦よりお嬢さんが行方不明との事でご相談がありました。
その際の調査について、個人を特定し得る情報を伏せご紹介して参ります。
back「娘がいないくなった。探して欲しいがそちらの事務所はどこか?」と父親である男性からの電話に、相談員の高橋が対応した。
「事務所は福岡市中央区の中央区役所の二軒隣りにあるビルの3Fです。目印としては1Fにお花屋さんとめんたいこ屋さんがありますので、すぐお分かりになると思います。」といつもの事務所案内の応対に、男性は、「佐賀から行くので1時間半ほどかかるだろう。」と話し、電話を切った。
「声が怖い感じの人でした〜。」と年輩の女性相談員の高橋が言う。
それに対し、「ご相談者も探偵社への依頼が初めてのことであれば怖いはずだよ。」と当たり前の言葉を返した。
私も職業を除けば普通の中年おやじである。
妻もいれば子供もいるのだ。
娘がいなくなり心配する中で、困り果てた末の探偵選びとなれば、初めての相手は信頼に足る相手なのかと緊張する。
声に力が入るのも当然だろう。

 約束の時刻となり、50代前半の男性が、奥様を連れ来社された。
恰幅の良い丸顔にメガネの様相で、温厚な雰囲気は声の印象とは違っている。
奥様もメガネを掛けた痩せ型の中年女性である。
 相談の内容は、25歳の娘が、家を出て2週間になる。
失踪当事、父親は放っておけと母親を制したが、母親は失踪当日、娘を心配し追跡したところ、バス、電車を乗り換えながら、天神福岡駅のコンコースを出た処で娘に見つかり、走って逃げたため見失ったとの事であった。
故に福岡市内の友人宅などを転々としているのではないかと云う。
 家を出た背景はこうだ。
福岡市の優秀な大学に進学していたが、アルバイトに熱中してしまい留年を繰り返し、満期退学となった後、両親に連れられ、実家である佐賀に戻り生活を送っていた。
就職活動をするよう、母親が幾度もすすめたが、活動する様子も無く、只々自宅でダラダラと過ごす毎日であった為、父親が厳しく注意したのを切っ掛けに、逃げ出すように家を出たと云う。
所持品は、少々の着替えと1万数千円程度の現金、銀行口座、携帯電話程度であると云う。
 1時間30分程度のご相談と調査の展開と方針の説明、探偵業法に基づく重要事項の説明と契約内容の説明の結果、ご依頼頂く事となった。

 対象者は、ご依頼者娘。
  氏名:九丸伸子(以下、本人と称する。)
  年齢:25歳。
  身長は156cmの小柄な体躯。
  髪型は肩までのストレートヘアー。
  着衣は白のダウンジャケット、ジーンズ、茶のバッグを所持。

我々は、まずは依頼人の助力を得て、最有力の情報となり得るであろう本人が所持している携帯電話の発信履歴を確認するため手配を行った。
同時に、本人の友人関係及び以前のアルバイト先など取材に回る事となった。

 

つづく